石を触る手

お墓を何とかしなくちゃいけないと、私は霊園に出かけた。
なんとなく歩いていたら、声を掛けてくれた人があったんです。
「お墓がほしいのか。ちょうど今石屋さんが来てるから、いろいろ教えてもらえ。事務所の奴らは、何も知らんで」
それはお盆のあとのゴミの山を片付ける仕事をされてる方でした。
自分でゴミを片付けられない、お年寄りばかりがお墓まいりに来るんだそうです。
石屋さんはよくしゃべる方でした。
「ここらで普通墓石に使うのは御影石だ。花崗岩なんだが、地下から噴出したマグマがゆっくり冷えたときに出来る石だ。石英長石黒雲母。冷え方がゆっくりだとそれらの結晶が大きく成長する。適度に冷えると、それらの結晶が適度に成長して、透明な石英、白い長石、黒い雲母、それらが混じった美しい灰色の石になるよ。マグマの成分によっては黒雲母が多くなって黒い石になるが、最近黒いのが高級そうに見えるって流行なんだが、黒いのは輸入もんなんだ。地元で取れる灰色の石が美しいと思う。注文があればどんな石でも作るが、地元の石が、美しい」
あまり話は聞いてなくて、でも、手を見てたんですよ。
見たところ、軽石のようで、ああ、これが、来る日も来る日も四六時中、石を触ってる人の手なんだ。手が。
その方に、とても親切にしていただきました。

お盆になると、思い出す。