父の種なしブドウ

戦前、父は、半島で果樹園をやってたらしい。敗戦で引き揚げてきて、その後、まあ、大雑把に言うと、パッとしなかったんですが、物干し台でブドウを育てていました。食べた後のブドウの種から芽が出たのを育ててたものですが、さすがに結構実はなっていました。

母は膠原病で3年間苦しんで亡くなりました。母の病室に父がブドウを持ってやって来て、「種なしになった」と言ってました。
父が帰った後、ブドウを食べながら、母が、「種なしになるはずがない。ウソを言って、買ったのを持ってきたな」そう言ってました。
母が亡くなり、父が亡くなり、立ち退きで、物干し台もブドウも無くなりました。