三島由紀夫の松

三島由紀夫が松を知らなかったというのは、割合流通してる話ですが、まあ、間違いでしょうね。そんなことはあり得ないです。その地方特有の変わった松だったので、特に名前があるのかと思って尋ねたということらしいです。三島由紀夫は感心もされるが反発も食う人で、そういう人が松を知らなかったというのは、オマヌケ野郎には格好のネタなんですよね。そういうことを言う人とは、テキトーに付き合っといたらいいですよ。
私が好きなのは、「豊饒の海、第2部、奔馬」の「雑木林で蒿雀(アオジが手短に啼いた」というところですが、アオジは「ジッ」と鳴きますが、「ジッと」ではなく「手短に」と書いたのが文学という感じがします。「手短」という言葉に音として「ジ」が入ってるんですよ。三島由紀夫はべらぼうに頭のいい人で、間違ったことを書かない、同じことを書かない(あれだけたくさん書いていて)、時代の流行に流されたことを書かない、と思いますです。アオジは、普通に見られる鳥ですが、自分も野鳥観察を始めるまでは知らなかったし、たいていの人は知らない鳥と思います。それはきっちり書いた三島由紀夫は、野鳥観察もしてたんでしょうかね。
それでですね、何が言いたいかというと、思想家とか哲学者とか、人間とは何か、考える人たちが、答えにたどり着かないのは、アオジを知らなくて、自然観察をしてないからと思うんですよ。典型的には岸田秀なんですが、自然観察をしてなくて自然科学に疎いので、優秀でいい仕事をしてるんですが、真実にたどり着いてないと思いますです。